資産運用とその理論の前提記事です
物理的なモノを生産する場合、基本的に在庫が避けられません
よっぽど生産者の立場が強いなら別ですが、まあ例外中の例外でしょう
在庫が少ないと注文があっても作れず機会損失となります
在庫が多いと資金繰りへの影響があったり、場合によっては売れ残りで廃棄となったりと、こちらも損失となります
地味ですが、製造業にとっては在庫の取り扱いは相当大きな課題なのです
この課題を解決するアプローチはいくつかあります(一杯あるんだろうけど私は知らない)
在庫を切らさず過剰な在庫は防ぐというコンセプトで、安全在庫という考え方があります
この考え方自体は素晴らしいです。そこは間違いありません
しかし、方向性を掴むのには使えるものの、計算式としては正しくともやっぱ実際とは違うよね、もっと大事なことがあるかもしれないよね、という課題があります
安全在庫についてこないだ仕事で触れる機会があったのですが、資産運用との共通点も感じました
特に、仮定を含む計算式を絶対のものと捉えないようにしたいなあと自戒したいと思います
安全在庫とは
発注してから5日間の納期の部品を在庫する際、平均所要量×5日(=納期)では不足します
何故なら、平均所要量を上回る注文が入れば欠品するからです
欲しい時に無いというのは機会損失(或いは納期遅れによるペナルティ)に繋がるので、もう少し余分に持ちたいところです
一方でじゃあ100日分持てばいい、など適当に決めると、過剰な在庫を抱える可能性があります
在庫が多すぎると資金繰りに影響があったり、陳腐化や消費期限切れで廃棄する羽目になるかもしれません
ではどのくらい余裕を持てばよいか、というのを解決する考え方の一つが安全在庫です
安全在庫=√リードタイム×使用数量の標準偏差×安全係数
で定められます
ここでいうリードタイムは発注間隔も加味して考えます
つまり、5日に1回しか発注しない場合、最悪値の5日を発注リードタイム(発注してから納品されるまでの期間)に加えたものが、今回の計算式で使うリードタイムとなります
また、1回の発注個数は、リードタイム内の平均所要量+安全在庫-現在の在庫数になります
在庫がリードタイム内の平均所要量+安全在庫になるように発注するとも言えます
安全在庫は需要のブレに対して余裕を持つための在庫なので、普通通り消費する在庫は別途必要になるわけです
この安全在庫の考え方により、欠品による機会損失を防ぎつつ、過剰な在庫となることも避けることができるという寸法です
参考リンク:
安全在庫の考え方の課題
理論上、この安全在庫の考え方は非常に優れています
安全在庫でググると133,000,000 件 もヒット(2021年7月現在)する普遍的な考え方です
しかし、この考え方は現場ではそんなに適用されていません(多分)
そこには理論と現実のずれがあるからです
安全在庫=√リードタイム×使用数量の標準偏差×安全係数でした
以下、各々の要素について現実とのずれを確認していきます
リードタイムは変わる
まずリードタイムです。これは固定値の如く表現されていますが、実際にはそんなことはありません
特に忙しい時期でもなければ、急いでと言えば急いでくれることが殆どです
サプライヤの工程が100%埋まっていることなんてそんなには無ありません
工程が空いていればサプライヤ側だってさっさと納入して次の受注に備えたいので、無理のない範囲の納期前進はお互いwin-winです
逆に忙しい時期はリードタイムが劇的に伸びます
折しも2021年7月現在、色んな部品の納期が伸びていて、通常1か月の納期の部品が6か月待ちになった、とかのケースが溢れています
6か月=180日、√180=13.5位、√30=5.5位ですから、普段からこれに対応しようとするなら、倍以上の在庫を持つ必要があります
現実的に取れる手段ではありません
つまり、この計算通りの在庫を持とうとしたところで、平時には過剰も良いところ、緊急時には足りないと、全くもって目的を達成できないのです
使用量も変わる
次に使用数量の標準偏差です。こちらも物凄く変動しうる数字です
平常時の半分と倍では4倍の差が生まれてしまいます
ものによってはそれ以上の変動すら容易にあり得ます
例えば昼間のワイドショーで○○が健康に良いと放送されれば店頭からその商品は消えます
とてもではありませんが、普通に計算した安全在庫で賄いきれる量ではありません
安全係数は勘
最後に安全係数です
安全係数はどの程度欠品を許容するかによりその大小を決めます
理論でばしっと決まるかと思いつつ、この数字を決めるのも最後は人であり勘です
欠品許容率が1%の時の安全係数は〇!というのは高らかに紹介されますが、じゃあ欠品許容率自体はどうやって決めるの?を謳った資料は存在しません
安全係数を決めるのは人なんです
在庫は安全係数により決める、安全係数は俺の勘で決める、だとすれば、最初から勘で決めたのと大差ありません
理論と実際の差
安全係数は、理論上、計算上は確かにそうだなという感じがします
しかし、ここまで触れてきたように、実際はそんなうまくいくことはありません
標準的な安全在庫の計算に対して、リードタイムの可変分で2.5倍、使用量の可変分で2倍、安全係数の可変分で2倍としても、10倍の在庫までは計算上適正です
当然ながら10倍の幅は許容できるわけがありません
より上位の解決策の方が重要なことがある
安全在庫で数字をああでもない、こうでもないと弄る前にもっと根本的な解決策があります
例えばリードタイムに関して言えば、サプライヤーと懇意になりものが不足している際に優先して回してもらうことで、欠品を回避できる可能性が飛躍的に高まります
使用量に関して言えば、即納で販売するのではなく納期を1週間にする、1週間の納期を2週間、・・・とすることでより少ない在庫でも回せるようになる可能性があります
また、お昼のワイドショーで放送される内容を事前に入手するというのも一つの対策でしょう
安全係数に関して言えば、時間が経っても価値が余り減らないもの、需要が1/3になったとしてもゼロにはならないもの(暫く発注を止めれば済むもの)は思い切って大量の在庫を抱えるという手段も取れます
在庫になるリスクはあるが、捨てる羽目にならないなら良しとすることで、欠品を防ぐことができます
また、安全係数を0或いはマイナスにして、常に欠品していることを買い手に許容して貰うのも良いでしょう
実際、個人製作などで余ったらキツイ場合はこうしている場合があります
(往々にしてそういった商品は転売されたりしますが)
まとめ(資産運用と計算式に続く)
安全在庫という考え方は素晴らしいと思います
しかし、述べてきたように問題点も多数含んでおり、盲目的に信じない方がよいでしょう
それを理解した上である程度の目安としてなら使えますし、あるいは極端な需要の変動がないなど限定された場合は適用することも可能です
他に世の中に存在する計算式も同じではないかと思います
1+1=2、この辺はまあ疑う必要は無いでしょう。そうじゃない世界も定義できますが、一般人には縁がないと思います
しかし、空気抵抗はないものとする、棒を剛体とする、この辺は場合によっては疑う必要が出てきます
空気抵抗がある中で物を投げたり、棒が変形する中で掛かる力を考えたりすれば、無い場合と比較して結果が変わります
一方で、結果は違うけど方向性が同じなので参考にできたり、オーダ的に無視できたりするかもしれません
空気抵抗があっても、45度に投げれば最善ではなくともそれなりに遠くまで飛びます
棒が変形したとしても、棒の根元に掛る力はそんなに変わりません(安全在庫の例のように10倍などの差は生まれません)
この辺りは資産運用にも通じるのではないかと思います
資産運用の話に入る前の前置きの方がとても長くなりましたが、資産運用とその理論に続きます
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